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2026年に読んだものとその感想 ​

雑記

DANGER

ネタバレにあたる部分はDetailsとしてあり、クリックしないと表示されないようになっています。しかしながら万全ではないかもしれませんので、目次にてタイトルなどご確認の上でご自衛ください。

夜間飛行 - サン=テグジュペリ(訳:堀口大學) ​

古本屋で買って積んでいたものを消化。表題作を含む短編が2編。宮崎駿によるカバー装画が素敵だったのだが、スーパーで買った小エビのパックの背面の糊にべったりとくっつき、上手く剝がれず還らぬものとなってしまった。悲しい。

宮崎駿本人が「強い影響を受けた」と語っているが、確かに文中の飛行の筆致は彼のアニメーションを彷彿とさせる。加えて飛行機乗りの男の情熱や身勝手さ、儚さまでもが同様に描かれていた。

TIP

脱線するが、宮崎駿がサン=テグジュペリの跡を追って現地を飛ぶドキュメンタリー(の転載のPart2)がめちゃくちゃ良かった。

夜間飛行 ​

昨年『女のいない男たち』を貸してもらって読んだときに貸し主から「登場人物が同じ場所をぐるぐると回り続ける」というトピックが出たが、本作でのリヴィエールの様子を見て、それは「ある地点を目指して進み続ける」ことと同値かもしれないと思った。線形代数における全単射であると言い換えてもよい。「ある地点」の座標は定まっているが決して辿り着くことはなく、単位ベクトルである。

このことが終盤にかけてはファビアンの操縦する飛行機の針路ともオーバーラップしはじめ、不思議な読書体験だった。

南方郵便機 ​

なんか実存主義っぽいな…という印象を受けると同時にPAS TASTA『THE CAR』の歌詞「はやさのなかにしか / おれは いないのだろうな」を想起し、次いで同曲が収録されたアルバム『GRAND POP』のインタビューにおいて『THE CAR』の歌詞が実存主義であると語られていたことを思い出し、勝手に答え合わせしたような気持ちになった。

操縦席において下界をあっという間に置き去りにする様子が、操縦席から降りたとき下界で街に置き去りにされる様子とハイコントラストな相似形になっているのがとても良かった。

人間の土地 - サン=テグジュペリ(訳:堀口大學) ​

新生活が始まるなどして読むのが断続的になり、随分と時間がかかってしまった。

最終章『人間』が思いのほかアツく、その説得力が『砂漠のまん中で』によって補強されていた。人間の本然について説いたうえでそれに対して否定も肯定もしない(ように見える)スタンスが、とても良いなと思った。

レキシントンの幽霊 - 村上春樹 ​

つくばを離れる時にもらった一冊。以前にも紹介してもらったことは覚えているが、どの文脈だったかは思い出せない。

全体的な感想として、読み手である自分に人生経験がまだ全然足りていないように感じる。分かりやすかったのは『緑色の獣』で、他の話も何がしか想像はできるけれどそこに実体が伴っていない。然るべきイベントを経たうえでもう一度読み返したい。

CF - 吉村萬壱 ​

課題図書として読んだ。この作品の主張はそれなりに理解して同意できるつもりで、確かに「型」を与えることは強力な制御であると思う。

しかしながら、読み物としての面白さがもっと担保されていてほしい。特に登場人物の描写が寓話的、悪く言えば紋切り型でベタなのがかなり気になった。この手法は星新一のショートショートのそれにかなり近いと思うが、それならそれでもっとサクッとまとめてほしい。最後のページのオチをやるための前振りとしては耐えられるギリギリの尺である。

煙か土か食い物 - 舞城王太郎 ​

ラーメン二郎みたいな作品!とても良かった。面白いと思いながら読み進めているのに何が面白いのか考える暇がない。こういうのをライブ感と呼ぶのでしょうか。文体も相まってストーリーの進行には強い勢いを感じるけれど、それは全体的な構成(特に各章の長さ)がしっかりと練られているが故なのかもしれないと感じた。

Details

推理を放棄して読んでいたし実際そうするべき作品ではあるが、それはそれとして日本語のアナグラムは自力で気付きたかった…!悔しい。

あと

クソ、でも俺は本当は親密さがほしいんだ。全てを預けてしまえるような種類の親密さが。これまで持ってきて作ってきて溜め込んできたものを一度に全部投げ出してしまっても平気の余裕の楽勝の親密さがほしいんだ。

のくだりがある種『ジラフセンター』的でかなりアツくて、そう言えば可ラッカさんも(本作かどうかは失念したが)舞城王太郎を読んだと言っていたなと思い出した。

闇の奥 - ジョゼフ・コンラッド(訳:黒原敏行) ​

あまり自分からは選ばないタイプの作品で有難い。植民地支配の云々というよりは、それを題材にした人の理の話であると理解した。我々は法治国家で近代的な暮らしをしているが、本当は、本当の意味で完全に自由なのだった。

それから、本編とはあまり関係なく訳者あとがきが良かった。名作を新しく翻訳しなおすときの難しさを垣間見ることができる。本作がこれから読みたいなと思っている作品の下敷きになっていることも分かり参考になった。

ディスコ探偵水曜日 - 舞城王太郎 ​

『煙か土か食い物』に先んじてレコメンドされた。装丁のイラストに既視感があるなと思ったら初音ミクのキャラデザの方だった。不要不急の萌えって素晴らしい。

本編について、面白いしすごい作品であることは間違いないが、事前に何らかの形で注意があっても良いと思うぐらいにはエログロが強烈である。自分の読書人生の中ではトップをぶっちぎりで更新しており、中高生の時分に読むと少なからず何かが歪んでしまう可能性がある。でもこの作品のために必要な表現であると言われたら、まあそれはそうか。

上巻 ​

推理小説として捉えるならば、その読み味はイントロで弾いたギターリフをサビの裏で弾き続けるタイプのアレであり、個人的にとても好きである。最終的にそんなのアリかよみたいな感じ(実際のところ、ない)になっていくが、頭を作品世界に順応させて考えればギリギリ思いつけそうなラインなのでずるい。

パインハウスの事件が落着して以降を読んでいるときは「もうこれで終わりでも別に文句ないな…」という感じだったが、最後の数ページでこの作品の強かさのようなものに引き戻された。

下巻 ​

忙しくなってしまい読み終わるまでにかなり時間が経ってしまった。すごい小説だった…。風呂敷を畳めているかどうかはさておき、読ませ続けて納得させるパワーがある。愛か~。

それから、このような独自ルールを展開してその中で事件を描くスタイルにおいては、読者にとって推理可能かどうかよりも作中の探偵に推理可能であるかどうかが重要なのだと分かった。

蠅の王 - ウィリアム・ゴールディング(訳:平井正穂) ​

確か下北沢の2階にある古本屋で買った一冊。レジに持っていったら思ったより高かった気がする[1]。

こういう子供のころの子供ながらの感情の機微を描く作品には弱いのだが、それを抜きにしてもめちゃくちゃ良かった。偉そうな言い方になってしまうけれど、エンタメとしても文学としても隙が無い!最後は見事に引き込まれて急ぐように読み進めてしまった。

少年たちを主人公にしているがそのまま我々の世界の大人たちに置き換えてよいと思うし、そういう意味では作中の大人に該当するような存在は我々の世界にはいない。そして徹底してドローン空撮のような三人称視点で語られることで、必ずしもラーフが常に正しいわけではないということが担保されてもいる。ただ、狼煙を上げ続けることの大切さを誰も分かってくれないくだりはかなり痛切だった[2]。

黄色い雨 - フリオ・リャマサーレス(訳:木村榮一) ​

散文詩みたいでめちゃくちゃ良かった。今年ベストと言ってもよい。時間という概念が溶けて、過去のシーンが1枚のレイヤーの上に綯い交ぜになるような表現が好きだなと思う。

旅のラゴス - 筒井康隆 ​

なぜか手元にあり再読。前に読んだ時のことは全く覚えておらず、各章ごとの敵キャラに思いを馳せる楽しみ方をした。ラゴスは基本的にいけすかなくて、後から気付いたけどこれって普通になろう系小説の源流か。

しかし文量のコンパクトさに対して巨大な世界観がカッチリ構築されており、かつ話の終わり方がとても綺麗で好きだなと思う。硬い読み方をすれば、加速し続ける資本主義への是非という視点もある。



  1. そしてそのあとERAでsidenerdsを観て、ぶっ倒れてあの階段を転げ落ちて、1階にいたERAのスタッフさんに水をいただいた気がする。その節はありがとうございました…。 ↩︎

  2. あの太陽が~ https://youtu.be/s2zD1zzNKWk ↩︎

CC-BY-SA-4.0